ネットワーク分析で人脈を考える

人脈、というのは、我々フリーランスにとってほとんど唯一の財産といえるものだと、僕は考えています。他の人から見れば「スキルは財産ではないのか?」というふうに思われるかもしれませんが、僕にとってはスキルは大した財産ではありません。

なぜなら、我々のスキルは流動の激しいものであり、一度身につけたからといって少しでも気を抜けば、すぐに陳腐化してしまいます。僕たちは常に最新を追い続けなければならず、その最新の情報は、僕を取り巻く様々な「人」を通じてもたらされています。その意味で、僕は人脈こそが唯一最大の財産であると考えているのです。

ここに、ネットワーク分析を専門とする科学者が書いた本があります。「人脈づくりの科学 – 「人と人との関係」に隠された力を探る – (安田雪)」です。この本では、ネットワーク分析の手法を元に、人脈の重要性や、望ましい人脈の形、そしてその形成のための方法などが研究されています。

人脈づくりの科学

考えてみれば、我々は両親に言葉を教わることからはじまり、学校で先生に教育を受け、会社では上司や先輩にマナーや技術を教わるなど、常に他の人々との関わりの中で人格を形成し、能力を身につけてきたのである。言ってみれば他者の産物なのだ。

(中略)

「自分探し」という言葉を、私はどうしても好きになれない。この言葉は、職業選択、結婚など、人生で大切な何かとの関わりを決定するときに、自分の内面を見つめる行為に対して使われることが多いようである。

だが、自分とは自分の中に存在するものなのだろうか。自分というものは、個人が孤独に己自身について考えることによって見いだせるものではないように、私には思える。

人が誰であり、何であるのかは、他者の力を借りずに知ることはできない。他者とのかかわりにおいて始めて、自分が他者よりも優れている点や劣っている点、他者に与えられるものと与えてもらうしかできないもの、得意なことや苦手なことなどを認識することができる。

部下の存在なしに上司は存在し得ず、生徒の存在なしに教員は存在し得ず、消費者の存在無くして製造者は存在し得ない、という当然のことから、筆者は、個々のアイデンティティは他者の認知や関係性に依存する部分が必ずある、と解説しています。

そして、様々な論考を加えた上で、最終的には、結果につながる優れた人間関係は、感情ではなく意志によってのみ、創りあげられるのである、という結論に至っています。個は他の存在や他との関連性によって規定されるため、個の結果の向上のためには生産性の高い人間関係を作る必要があり、さらに、そのような人間関係は自然に発生するものではなく、意図的に創るものである、と。

意図的に創るべき人間関係がどのようなものであるか、ということについては実際に本書をお読みいただくとして、その要点の一つである「遠くにいる人ほど役に立つ」という部分についての解説が、僕にはとても興味深く読むことができました。関係の密度の高いネットワークよりも、空隙の多いネットワークのほうが情報収集能力が高い、という部分です。

例えば僕を中心に知人Aと知人Bと知人Cの4名がいたとします。彼らはそれぞれ僕と知り合いであるだけでなく、AとBも、BとCも、CとAも、お互いに知り合いだったとします。つまり、4人が全員を相互に知り合っている状態です。このような密度の高いネットワークの場合、知人Aが知っている情報は、知人Bにとっても知人Cにとっても僕にとっても既知のことが多く、新しい情報をもたらしにくいというのです。

別の例として、僕を中心に知人Xと知人Yと知人Zの4名がいたとします。彼らはそれぞれ僕と知り合いであるというだけで、それぞれの間ではお互いを知らない、という空隙の多いネットワークを考えてみます。この場合、知人Xからもたらされる情報は、知人Yにとっても知人Zにとっても僕にとっても、未知の情報である確率が高い、というわけです。

このようなことは僕にとってはとてもリアルな実感の持てることです。僕には全国に、さまざまな業種に渡る知り合いがいて、彼らはいくつかに分かれてグループ(密度の高いネットワーク)を形成してはいるものの、グループ同士の交流はなく、僕だけがすべてのグループに属しているような状態になっています。つまり、それぞれのグループは僕を介して空隙の多いネットワークを形成しているような形になるわけです。

すると、それぞれのグループ内で当たり前のように流通している情報を僕が別のグループに伝えると、その別のグループでは新鮮な情報であったりするようなことが頻繁に起こります。これこそが、僕が空隙の多いネットワークを活かして情報のハブとして機能する瞬間であり、こういったときに、ネットワーク上での僕の価値は高まるのでしょう。

では、そういったネットワークを創ったり維持したりするには? という課題については、「人脈づくりの科学 – 「人と人との関係」に隠された力を探る – (安田雪)」を読んでそれぞれで考えてみてください。そして、またいつかの機会に、その有効性について話し合いましょう。