僕がフリーランスを志向する理由

そもそもなぜ会社は存在するのか。理由は様々あるとは思いますが、その大きなものの一つに「会社内では取引費用が低い」ということがあると思います。つまり、市場の中で誰もが、完全に自由に、誰とでも契約を締結し、履行することができるなら、会社が存在する意義はありません。しかし、任意の誰かと実際に何らかの契約をしようとすると、事前の情報交換やそれに伴って消費される時間など、取引のコストが増大します。そこで、会社を作り各個人と雇用契約を結び、個人間の契約はその内部に包括することで、会社内から取引市場を排除し、社内の個人間の取引費用を実質的にゼロにします。その上で、契約関係は会社間で行うようにすることで、市場全体の一部として機能しようとします。会社の内部には市場構造は存在せず、代わりにヒエラルキーが存在し、各個人の能力や時間はこのヒエラルキーに管理されます。

つまり、会社が存在する意義というのは、その内部での取引費用を引き下げることによって、個人が契約の締結や履行といったことに煩わされることなく、自由に情報を交換したり協働したりする場を提供し、市場に対して能力を還元することにあります。しかし、この構造はいつまで保たれるのでしょうか?僕は、もしかしたらすでに、一部ではその構造は崩れつつあるのではないかと考えています。

以前に別のエントリで、「規模の経済」から「範囲の経済」へと転換が起こっているような現状では、「変化に対応できる熟練した労働者」が必要であると書きました。そして、その「変化に対応できる熟練した労働者」たちの多くはフリーランス(自己雇用者)という形態で市場のあちこちに分散しており、もはや彼らのような人材を自社に囲い込むことは困難であるように見えます。さらにはSNSやブログやグループウエアやメールやインスタント・メッセンジャーなどのコミュニケーション・インフラがそれなりに発達した今となっては、取引コストもそれほど大きなものではなくなり、少なくとも僕の考えるところでは、会社が存在する意義はすでに崩れてしまっています。

もちろん、こんなことは現在のところ限られた業種の、限られたグループの中だけに起こっていることであって、市場全体から見ればごくごく一部の現象でしかありません。しかし、My Life Between Silicon Valley and Japan – 「次の十年」のキャリア構築と「個のエンパワーメント」の中での梅田さんの考察は、もしかしたらこの動きがかなりの広範囲にまで広がっていくのではないかと思わせます。そのエントリの中で梅田さんは、以下のような考察をしています。

そしてチーム、プロジェクト、協力という感覚を皆が共有していて、たとえば何か技術的な問題に直面すればギークの友人にIMで尋ね、問題を解決する。会社の境界など考えずに、外部の人間の知恵を求める。

(中略)

そしてこうした若者文化は、米国企業の仕事の仕方や組織のあり方を、今後大きく変えていく可能性が強い。よって、「個」にとってのネットワークの重要性が、さらに増してくる。当然のことながらSNSをはじめとする道具は道具にすぎず、その道具を使いこなして、いかに自分にとって「真に価値あるネットワーク」を構築し、維持し続けることができるかがキャリア構築の鍵を握る時代がやってくるはずだ。

こういったことは僕も常々考えていることですが、まだまだ「企業の仕事の仕方や組織のあり方」にまで大きな変化をもたらしているわけではなく、今後どうなっていくのか、というところでは、少し極端な行動をとって試してみる価値があると思うのです。そして、僕が身を置いている「ウェブ制作」や「ウェブ・マーケティング」の業界では、フリーランスに一定の理解があり、「個に特化したワークスタイル」を構築したとしても、何とかやっていけます。じゃあそれで、いろいろ試しながらやってみようじゃないか、というのが、いま僕がフリーランスを志向する理由です。

そして僕は、個人としてできる試みは節操なく試す、というようなこともやっています。最近のエントリで挙げたAdsenseやアフィリエイトもその一例です。そもそも僕はSEOの技術者として、アフィリエイト・サービスのプロバイダー(ASP)の人たちとも仲良くさせていただいており、ASP主催のアフィリエイター向けセミナーなどでも何度か講師として招かれ、講演を行っています(活動履歴と今後の予定を参照)。しかし、僕自身はつい去年2005年の9月頃までは、Amazonのアソシエイトで自分が書いた本を売ったことがある程度で、本格的に取り組んだことはありませんでした。しかし、そういったASP周りの活動の中で知り合った方で、アフィリエイト・ポータルネットほか数多くのサイトを運営している方が書いた本「アフィリエイトでめざせ!月収100万円—ウェブサイトでバナー広告収入を得る秘訣とは?」(あびる やすみつ 著)を読んだことがきっかけで、自分でもこの手のことをはじめてみた、というわけです。この本は、僕にとってはかなりの衝撃でした。

僕はそれまで、SEOのために様々なサイトを運営してきました。それらは大きく分けて二種類あり、一方は「ノウハウ提供サイト」、もう一方は「専門リンク集」のようなものであり、それらはいずれも「リンクポピュラリティを集める」といった意味のもので、運営していても間接的に仕事に役立ってはいたものの、それ自体が収益をもたらすようなものではありませんでした。しかしこれらにAdsenseやアフィリエイトを仕込んでみると、「ただタグを設置しただけ」でかなりの収益が上がり、さらに収益を上げるべく様々なチューニングを施すことで、今ではそれなりの不労所得をたたき出す状態に至っています。こういったことも、自分で実際にやってみなければその威力に気付かなかったわけで、まさに僕自身がそうだったように、サイトを運営しているだけで「富の分配システム」を活用していないがために大損している人はたくさんいるのではないかと思います。

少し話が脱線しましたが、僕は通常業務であるところのウェブ制作やウェブ・マーケティング、そしてそれら関連した講演や執筆を本業としていて、それらの活動から派生したサイトを複数運営しています。しかし、本業だけに拘るのではなく、それらで得た「ノウハウ」や「人的ネットワーク」や「リンクポピュラリティ」や「トラフィック」を総合的に活用することで、さらに新たな「ノウハウ」や「人的ネットワーク」や「リンクポピュラリティ」や「トラフィック」を得ることができる、という好循環も生み出すことができます。このブログなどはその好例で、本業には関わりのないこともたくさん書いていますが、それらは、どんな形でかはわかりませんが、再び僕に戻ってきます。そしてまわりまわって、本業でも役に立つ、という具合です。

僕は、悪く言えば「人的ネットワークやインターネットに依存して事業を成立させている」わけですが、僕はフリーランスという立場を最大限に利用して、その依存している状態を「極端なまでに」突き詰めることで、新しい地平を見てみたいと思っています。そしてそれは、僕だけではなく、やろうと思いさえすれば誰にでも、その人に合ったやり方で実現することができる、というようなものであって欲しいと思っています。だからまずは、僕が実践してみるのです。この世界で生きている一人の人間の夢として、インターネットは知的にも金銭的にも開かれたものであって欲しいと思いますし、それらを両立した上で成り立つ「楽しみ」や「喜び」の再循環のようなものは、僕にとっては人生の理想に限りなく近いものなのです。大きなビジネス上の夢のようなものはありませんが、僕は権威的でない「誰にでもできる小さな成功」を強く志向しているのです。