ポール・オースターがNPR(全米公共ラジオ)の番組の中で聴取者から集めたアメリカの実話のうち、選りすぐった180編を掲載した「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」(ポール・オースター編)、この素晴らしい本を、晩酌の時間を使って毎日少しずつ読み進め、つい昨日読了しました。オースター曰く「アメリカが物語るのが聞こえる」「誰かがこの本を最初から最後まで読んで、一度も涙を流さず、一度も声を上げて笑わないという事態は、私には想像しがたい」というこの本を僕は山本さんのブログで知り、それ以来昨日までかかって読んだものです。
オースターはラジオで聴取者に呼びかけたときのことを以下のように書いています。
物語を求めているのです、と私は聴取者に呼びかけた。物語は事実でなければならず、短くないと行けませんが、内容やスタイルに関しては何ら制限はありません。私が何より惹かれるのは、世界とはこういうものだという私たちの予想をくつがえす物語であり、私たちの家族の歴史のなか、私たちの心や体、私たちの魂のなかで働いている神秘にして知りがたい様々な力を明かしてくれる逸話なのです。
そしてその呼びかけの結果、1年間で4000点もの物語が集まり、ラジオで紹介するだけでなく、それらの物語を書籍にしよう、ということで編纂されたのが本書だそうです。この本に収められている物語はどれも、作り話にするにはあまりにもリアリティのない、奇妙すぎる、それでいて読む人の心を打つような物語ばかりです。帯には以下のようにありました。
爆笑もののヘマ、胸を締めつけられるような偶然、死とのニアミス、奇跡のような遭遇、およそありえない皮肉、もろもろの予兆、悲しみ、痛み、夢。投稿者たちが取り上げたのはそういったテーマだった。世界について知れば知るほど、世界はますます捉えがたい、ますます混乱させられる場になっていくと信じているのは自分一人ではないことを私は知った。
それぞれは短い物語なのですが、それぞれが個性的な色彩に彩られていて、それだけに一気に読み進めるには精神的な疲労が大きすぎるほどです。晩酌の供に、とか就寝前のベッドで、とかいう読み方がよいと思います。僕がこの本の前に晩酌の供として読んでいた本とあわせて、強くお薦めしたい一冊です。世界の見え方が変わってきます。