堺 ちゃんぽん 六五六(ムツゴロウ)

僕は基本的に食べ物の好き嫌いなどはまったくなくて、食べて美味しいと思わないものはほとんどありません。見た目がグロいから、とか、食べるのが面倒だから、といった理由で敬遠する食べ物もあるにはありますが、それらも別に味が嫌いだとかいうことはなく、いただく場合には常に美味しくいただいています。

また「食べてみたけれどあまり好きではない」と思ったものも数々ありますが、それらの場合は単に「アタリを引いたことがない」といったようなもので、好き嫌いをいわずに色々と食べていると、あまり好きではないと思っていた素材や料理でも、心から美味しいと思えるようなものにいずれ巡り会います。

そして今回取り上げる「ちゃんぽん」も、美味しいちゃんぽんに巡り会ったことがなかったために敬遠していたものの一つです。しかし出会ってしまいました。めちゃくちゃ美味しいちゃんぽん。

今回のお店は「九州ラーメン六五六(ムツゴロウ)」。場所は大阪中央環状線沿いの三国ヶ丘近辺、向陵中町の交差点の近くに、中央環状線に面して立地しています。大きな幹線道路沿いという立地にもかかわらず、駐車場はありません。最寄り駅は、南海高野線・JR阪和線の三国ヶ丘駅ですが、駅からは徒歩で15分程度と離れています。

近くには人の集まる場所はありませんから、この店に行くことだけを目的に、わざわざ出かけなければなりません。そしてお店の外観ですが、びっくりするほど不衛生な感じで、正常な感覚の持ち主なら敬遠すること請け合いです。

さらにイカレた雰囲気を醸し出しているのがこの看板(写真右下)と、大将の持ち物である店の前に置かれたBMWの単車です。ここまでダメな雰囲気は狙っても出せないように思います。

カウンター席だけの店内にはいると、メニューなどの張り紙はなく、店内に張ってあるのはBMWの単車のポスターばかり。メニューはちゃんぽんだけしかなく、初めて入店した客には大将から「うちはちゃんぽんしかないで」の声がかかります。カウンター席に座ると、一人で店を切り盛りしている大将が自動的にちゃんぽんを作ってくれます。大盛り(通常の2倍の量)を食べたい人は、座ると同時に大盛りを頼まないと、勝手に普通のちゃんぽんができてます。

ちゃんぽんは900円なのですが、昼時などはカウンターの上部に100円玉が置かれており、客は会計時、同じくカウンターの上部に置かれた灰皿に千円札を挟み、勝手にその100円玉をとる、という極めてシンプルな会計方式をとっています。客は注文の必要がなく、会計も自分でする、というローコストオペレーションです。営業時間は午前11頃から午後1時以降で客足が途切れるまでと、午後6時頃から午後8時以降で客足が途切れるまで、という感じで、一日およそ4時間半程度の営業です。

ちゃんぽんはもう想像を絶する美味しさです。スープは少し冷めてくると表面に膜が張り、食べれば口がベタつくほど濃厚な豚骨スープ。こんなに濃厚なスープは初めて食べました。しかし油っぽくも臭くもなく、コショウの味と香りがかなり強烈なため、濃厚ながらもスッキリと食べられます。

また、特筆すべきはその野菜の量と味。野菜はキャベツと細モヤシがほとんどで、あとは細切りのニンジンが少々、という内容なのですが、その量たるや、出された時点では麺が見えないほど。一般的な中華料理店の野菜炒めの2倍程度の量があります。そして味ですが、火の通し方が絶妙で、キャベツの甘みと細モヤシの食感がともに十分に引き出されていて、まさに脱帽の美味しさです。

おっちゃんの調理風景を見ていると、まずはラードで豚肉とイカを炒め、その後に山盛りのキャベツと細切りニンジン少々、チクワなどの練り物のみじん切りを少々、そして秘密のスープを少々鍋に投入します。ここでざっと炒めるのですが、この時間が短い。ほんの数回、油とスープを循環させるだけ、といった感じです。その後に細モヤシを投入してさらにほんの数回鍋を振り、豚骨スープと塩コショウ、そして麺を入れ、あとは完成まで鍋はさわりません。完成直前にウスターソースを少し入れるだけです。

僕が思うに、この「鍋をいじらない」というのが、キャベツの甘みの秘密なのではないかと思います。つまり、「炒める」のではなくて、お好み焼きのキャベツのように「蒸し上げる」ことで甘みを引き出しているわけです。細モヤシも蒸されたような状態ですから、これが食感を高めているのかなあ、と。

そして味の良さもさることながら、食べた後の満足感は本当に素晴らしいです。肉をたらふく食べた後とか、甘いものをたらふく食べた後のような、多幸感に似た食後感が得られます。これらを一度体験してしまうと、もう病みつきです。たまにどうしても食べたくなって、ついつい足を運んでしまいます。少々入りにくい感じのするお店ですし、アクセスも良くないですが、気になる方は是非。

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