雨の日さえも愛おしく

感受性と表現力を共に高いレベルで備えた人、というのは、文学者や音楽家などのなかにたくさんいて、彼らの作品に触れるたびに大きい感動がもたらされます。彼らの作品に触れるたびに、彼らの感受性を少しだけ分けてもらうことができ、今までとは違う見方で、世界や自分自身を見ることができます。たとえば今日のように、薄暗い空から雨が降り止まない一日だったとしても、それを憂鬱なだけのものではなく、素晴らしい自然の一部としてとらえる視点も、彼らの作品を通じて分けてもらうことができます。

科学者や宗教家の書いた詩もまた、彼らが世界を深く探求しているからこそのことでしょうが、僕たちに新しい視点と世界に対する深い愛情をくれることがあります。僕のお気に入りは、空海。彼は宗教家であり、科学者であり、書家であり、詩人であり、彫刻家であり、画家であり、実業家でした。そして彼は、誰よりも強い感受性と、誰よりも優れた表現力を備えていました。

空海 言葉の輝きその空海の詩文の良さを、我々凡人にもうまく伝えている本があります。「空海 言葉の輝き」です。この本は、空海の詩文からの抜粋と解説、そして高野山の美しい風景の写真で構成されており、一見すると写真集のような体裁です。詩文は活き活きとして情感にあふれ、読むたびに心が洗われるような、素晴らしい名文揃いです。そこに、まさにその空海が愛した高野山の風景写真が重なり、何とも言い尽くせない世界を醸し出しています。

世界は間違いなく素晴らしいもので、人も、自然も、すべてが愛おしく思えるようになるよい本です。同時期に出会ったもう一冊の本(こちらは宗教とはまったく関係ありませんが)とともに、僕は世界の深さを思い知り、同時にちょっといい気分になったりもするのです(いずれも晩酌のお供だったからかもしれませんが)。