江戸前天丼 浅草吉原 土手の伊勢屋

ごま油の香り高い江戸前の天麩羅は、その強烈なボリュームと食後の胃へのダメージから、そう頻繁に食べたいと思うものではありません。しかし、一度味わってしまうと、どうしてもたまに食べたくなるのが江戸前の天麩羅です。

現在では、全国的に天麩羅といえば白っぽくて薄い衣、素材の良さを活かして油の香りを抑えた関西風のそれが広まり主流となっており、黄色い衣をたっぷりとまとった江戸前風のものを食べる機会はそれほど多くありません。江戸前風のものを供する店も少なくなってしまいました。その中で、僕のお気に入りは吉原の「土手の伊勢屋」です(土手というのは地名)。

伊勢屋の天丼

この店は、三ノ輪から徒歩15分、浅草からなら徒歩で25分程度、といった具合で交通の便は決して良くありません。その昔、塀と鉄門で閉ざされていた吉原の遊郭の唯一の入り口だった「吉原大門」があった場所(いまも交差点名だけは存在します)にほど近く、隣(下の写真左奥)の桜鍋「中江」と共に明治期の開業で、古くからの吉原の風情を今に残す名店です。

外観

この日僕が訪れたのは13時30分頃で、上の写真でわかるとおり、すでに昼の営業時間は終わり、暖簾は店内に仕舞われているのですが、それでもまったく行列が途絶えません。この店は行列の途中で「今日はここまで」などとお客を遮るようなことはせず、並んでいるお客さんがすべていなくなるまで営業を続けます。行列は店を回り込むようにして露地へと伸びていきます。

伊勢屋の行列

お客さん客を遮らない、とは言っても、仕込みの済んだタネがなくなることはあるようで、時間が遅くなると「本日は終了しました」の札だけではなく、「本日は売切れました」の札も追加されます。これらはすべて、僕が並んでいる間に出されたものです。

売り切れと終了の札

かなりの行列ができていても、店が小さい割に回転が速いため、何時間も待つようなことはありません。この日は30分と少々並んで店にはいることができました。狭く薄暗い店内には、ぎっしりとお客さんがいます。

伊勢屋の店内

メニューは下のような感じになっています。同種のお店に比べると、かなりリーズナブルなお値段です。

伊勢屋のメニュー

ここで注意したいのは、そのボリュームです。値段の安さに惑わされてはいけません。この日僕が食べたのは、冒頭の写真にあるもので、天丼の「ロ」です。これでも、特大の穴子と海老、烏賊のかき揚げ、シシトウがついています。タレも濃厚ですし、ごま油の香りも強いので、かなりのボリュームがあり、深酒した翌日などはもう少し量の少ないものにしておいた方がよいかもしれません。(一般的な)関西風のあっさりした天丼を思い浮かべていると、確実に痛い目に遭います。「江戸っ子の味」を楽しむというつもりで行くべきでしょう。

ちなみに、これが最上位の「ハ」ともなると、海老が二本になり、烏賊のかき揚げが芝海老のかき揚げに変わります。特に海老天が二本になるのは想像以上のボリューム増で、生粋の江戸っ子ならともかく、通常の胃袋の持ち主であれば「ハ」を完食するのはかなり困難だと思います。大食い自慢の方か、若くて健康な男性でないと、最後まで美味しくいただくのは困難でしょう。美味しいのですが、あまりにもボリュームがありすぎるのです。

土手の伊勢屋 天丼ハ

美味しければいくらでも食べられるというようなことは、ここの天麩羅には当てはまりません。こうした意味から、僕のお薦めは「ロ」なのですが、「ハ」についている芝海老のかき揚げ天はもう言葉にできないほどの極上の品で、大振りでプリッと身の締まった芝海老がゴロゴロ入っていて、それはそれは美味しいのです。健康な男性に限りますが、体調と相談しながら、一度くらいはチャレンジしてみるのもよいかもしれません(僕は過去一度だけ試しましたが、あとでかなり胸やけしました。美味しかったんですけど)。

店舗情報

所在地
東京都台東区日本堤1-9-2(下の地図参照)
電話番号
06-3872-4886
営業時間・定休日
昼11:30〜14:00、夜17:00〜20:00(早めに行ったほうがよいです)、水曜定休

周辺地図