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六道という Lifehack

六道といえば普通は、仏教ないし原始仏教において、生命がその因果に応じて転生し続けるという6種の苦の世界のことを指します。六道は救いの少ないものから順にそれぞれ、地獄道、餓鬼道、畜生道、修羅道、人間道、天道、と呼ばれ、悟りを開いて解脱しない限り、すべての生命はこの六道から逃れられず、死後は生前の行いに応じてこれらの六道のいずれかに転生する、というわけです。しかしこれは現代人にとっては寓話風味に過ぎて、この現代の日本でこの六道輪廻を信じて疑わないという人はまずいないでしょう。もちろん僕にしたところで、死後の転生や六道の存在を信じていたりはしません。日常生活の中では、すでにちょっとした予備知識程度のものとなってしまっているというのが現状でしょう。

ところが、現役の禅僧であり芥川賞作家でもある玄侑宗久さんは、エッセイの中で「六道とは心の状態である」というようなことを繰り返し述べており、これが非常に興味深いのです。例えば、以下のようなものがあります。

釈迦に説法仏教では人間の心に「六道」という幅を想定している。地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天道というのがそれだが、同一人物の心のあり方にはそれほどの幅があるというのだ。

(中略)

人間は、よい人と悪い人がいるわけではなく、状況によってよい人にも悪い人にもなる、というのが仏教的人間観だろう。

釈迦に説法」P36〜37

つまり、玄侑宗久さんは、六道のそれぞれをすべて心の状態であるというわけです。僕たちの心は六道をさまよっており、常にこの中を流転している、と。そう考えると、なるほど六道という考え方が生まれてきた背景もまた理解できます。六道輪廻という考え方は仏教や釈迦以前からインドに存在した考え方らしい(しかもそれはカースト制度を補強する考えであるとして釈迦は否定したこともあるらしい)のですが、これはきっと、生きている人間の苦しみを観察したところから生まれてきたものなのでしょう。六道の世界観をもとに、それぞれを人の心の状態にあてはめると、以下のようになるでしょうか。

天道
欲から離れることによって苦しみは減っているものの、退没苦(いずれ衰えたり死んだりしてしまうという苦しみ)だけは残っている状態
人間道
愛別離苦(愛する者と別れる苦しみ)や怨憎会苦(憎んでいる者と会う苦しみ)などのように、人の間(つまり人間: じんかん)に起きる苦しみにもがいている状態
修羅道
嫉妬心や劣等感、怒りといった感情に苛まれ、心がすさんでいて、争いごとや戦い、誹謗、中傷、足の引っ張り合いばかりしている状態。喧嘩腰で反発的な状態
畜生道
知識や知性が足りないために自律できず、長期的な視点によらず本能や条件反射によってしか判断ができない状態。自由な意志決定ができなかったり、他者に使役されるだけの状態
餓鬼道
欲望と満たされない不満に感情が占領され、強欲のあまり恥や感謝の気持ちを忘れている状態。欲ボケ、厚顔、貪欲な状態
地獄道
上記のそれぞれの苦しみが絶えない状態

こう見ると、餓鬼道や修羅道はネットにおける「厨房」の説明そのままですし、餓鬼道などは昨今のニュースを騒がせる経済事犯の主役たちのようで、実に現実と整合がとれているように思います。なるほどこの六道という考え方、生きている人間の苦しみを観察したところから生まれてきたものらしく、確かに死後の世界というよりも現実の人間の状態を表していそうです。

自分のことを客観的に見るのは難しいものですが、身近な人々にこれをあてはめて考えてみると、実にいろいろなことが見えてくるように思います。僕のまわりにも、嫉妬心が強く自己保身に汲々としている人(餓鬼道)や、先手を読むことなく目先の問題の対処にばかり忙殺されている人(畜生道)や、猜疑心が強くいつも誰かを罵ったり詰問したいしている人(修羅道)、いつも人間関係のこじれからくるトラブルに悩んでいる人(人間道)などがたくさんいることに気付きます。そして、そうした状態に陥りがちな自分の姿もまた見えてくる、というわけです。

これは仏教の話ですから、こうした苦しみから逃れるための hack(八正道など)もあり、むしろそうした hack の実践にこそ価値があるという話なのですが、そこまで話すとあまりに抹香臭いのでこのあたりにしておきます。ともあれ、この六道の考え方を知っていれば、六道にあてはめて自分がどの状態にあるのかを客観視することができ、いくらかでも自律的に過ごす足しにできそうです。今まではすごく古くさいと思っていた六道という概念が、現在もなお活用できるものだというのは大変な驚きでした。

まあ、坊さんの法話というものはその性質から全部 Lifehack だと言って差し支えないかと思いますが、外国人への受け入れられ具合などから見ても、特に禅宗の坊さんの話は Lifehack としての価値の大きいものなのかもしれません。いつも新しい Lifehack の方法を示してくれる玄侑宗久さんですが、以下に Lifehack 的要素の強い本を挙げておきます。どれも読みやすい新書版ですが、特に僕がお薦めしたいのは「禅的生活」です。よろしければどうぞ。

釈迦に説法禅的生活現代語訳 般若心経

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