先日7月15日に六本木ヒルズで行われたイベント「Web標準の日」ですが、最後のプログラムであるパネルディスカッション「Web標準はビジネスをどう変えるか」に、パネラーとして参加してきました。6名のパネラーと1名のモデレータ、Web標準に対する立ち位置も仕事の内容も異なる計7名で、シナリオもないままに限られた60分という時間でのディスカッション。やはり、7名で60分という時間は短すぎました。60分を単純に頭数の7名で割っても、一人あたりの持ち時間は8分強でしかなく、議論の中心すら見えないままに終了してしまった、という感じでした。僕としても不完全燃焼の感は否めません。そこで、このエントリで僕の個人的な意見を少しまとめておこうと思います。

まず、セッション冒頭の森田さんによる「Web標準でビジネスが変わることはない。Web標準はあくまでも道具であって、コミュニケーションとは別」といった意味の発言、僕はこれに完全に同意しています。Web標準というのは、細かい解釈の違いはあっても、おおまかに言って「実装技術のスタンダード」を指すものであって、メッセージやコミュニケーションとは別次元の話です。サイトのユーザーにとって重要なのは、メッセージやコミュニケーションや各種の体験なのであって、それがどんな技術で実装されているかなどといったことは、ユーザーには無関係です。ユーザーに関係のないことが、ビジネスを変えるなどということはあり得ません。
それがビジネスである限り、重要なのは、伝えたいメッセージは何か、誰に伝えたいのか、それをどう表現するのか、会社や商品とユーザーのコミュニケーションをどう設計するのか、といったことなのであって、実装技術ではありません。ユーザーとのコミュニケーションを中心とするのではなく、Web標準だのAjaxだのFlashだのといった実装技術を中心にしていては、何かを踏み外してしまうでしょう。森田さんが言いたかったはこのことかもしれませんし、違うかもしれませんが、僕が考えるところでは「Web標準くらいのことではビジネスは変わらない」というところです。
それを踏まえて次に進みたいのですが、ビジネスの基盤としてインターネットが定着していく過程においては、僕はWeb標準技術は少なからぬ貢献をするのではないかと考えています。それはWebは情報インフラとして機能するための前提のようなもので、それが定着してはじめて、誰もが「技術を意識せずに」そこでビジネスを展開できるようになる、というような考えです。実装技術よりもメッセージとコミュニケーション。これがビジネスのあるべき姿だと思うのですが、現実のWebはそうはなっていません。その状況が改善されるために、Web標準技術が貢献するのではないか、ということです。
例えば電波媒体の場合で、テレビやラジオが放送局ごとに微妙に異なる技術仕様で放送を行っていて、受信機によって視聴できる放送局に制限がある、といった状況だったとしたら、そこで広告を流そうとする会社も技術仕様を意識せずにはいられません。しかし、実際には、放送も受信も決められた標準仕様に基づいて行われているため、広告を流したい会社は技術のことは考えずに、受信者に届けるメッセージやその表現に専念することができます。ところが、Webはまだこの段階にまでは達していません。
現状のWebにおいては、まずユーザー環境であるブラウザの標準準拠の状況がおもわしくなかったり、それにともなう各種の条件から、意識の高い制作者ですら完全に標準に準拠したページを制作できなかったり、といった現実的な状況があります。また、Webの大きな魅力の一つは「情報共有の手軽さ」ですが、手軽にWebページを生成できるツールのほとんどはWeb標準に準拠していない、といった現状もあります。これらを理由として、どんなユーザー環境であってもすべてのページを過不足なく利用できる、といった理想的な環境はまだできていません。しかし、これからWeb標準が一般化するにつれて、Webはビジネスの基盤としてより使い勝手の良いものに成長していくのはほぼ間違いないでしょう。
つまり、ブラウザの標準準拠、Webページの標準準拠、オーサリングツールの標準準拠、といった環境が整備されていくにつれて、Webはビジネスの基盤としての機能を高めていく、と僕は考えているのです。逆に言えば、メッセージやコミュニケーションの伝達といったビジネスに必要とされる環境を整えるべく、ビジネス上の必要に迫られてWeb標準技術が浸透していくのであって、いわば「Web標準がビジネスを変えるのではなく、ビジネスがWeb標準を変える」のだと、僕は考えています。
# 「ビジネス」をビジネス全体ではなく「Web制作屋さんのビジネス」と限定すると、Web標準はいくらかビジネスを変化させるかもしれません。FlashやSEOやAjaxがもたらした変化と同じ程度に。
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