ここ最近、Web関連のセミナーで講演するたびに、出席者のWeb制作者たちから必ずと言っていいほど出てくる意見の一つに、「耳年増になった中小企業のクライアントが、わけもわからずにSEOだの上位表示だのと執着しすぎていて、鬱陶しいことこの上ない」というものがあります。確かにSEOやリスティング広告などのサーチマーケティングは完全に一般化し、その活用は広く中小零細企業にまで及んでいます。ことに、中小零細企業の経営者の間では今頃になってSEOの話題が流行しているようで、その結果、Web制作会社の多くがSEOの成功を希望する中小零細企業経営者からの圧力に苦しんでいるという状況にあるようです。しかし、ここで一つ確認しておきたいのは、SEOやサーチマーケティングは万能ではないだけでなく、致命的な欠陥も持っている、ということです。
以前のエントリ「Webにおける情報探索行動の変化と情報発信者の対応」の中でも少し触れましたが、人々が行う情報探索行動のうち、Web検索を使った情報探索行動は「情報問題解決」を目的として行われます。つまり、何かしら調べたい事柄があり、それに関する情報を検索する、という比較的はっきりとした目的があって、人はWeb検索を利用するわけです。こうしたことから、サーチマーケティングは動機の強いターゲットユーザーを重点的に集客することができるために、強力な集客手法として広く活用されるに至りました。しかし、SEOなどのサーチマーケティングがもたらす巨大なトラフィックは魅力的ではありますが、そのトラフィックの質に目を向けると、いくつかの落とし穴が潜んでいることに気付くはずです。
サーチマーケティングのメリットとデメリット
サーチマーケティングによって集客できるユーザーがどのような属性を持っているか、という点に焦点をあてて考えると、サーチマーケティングのメリットとデメリットが明確になります。
- サーチマーケティングのメリット
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- 検索キーワードに関連した事柄に対して動機の強いユーザーを集客できる
- 集客時点でキーワードを使ってある程度のターゲティングがされているために、購買や資料請求などのアクションへとつながりやすい
- ある程度ニッチな層へもリーチしやすいため、特殊な商品やサービスへの誘導にも適している
- 適切に行えばキャンペーンを低予算に抑えられる
- サーチマーケティングのデメリット
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- 購入を検討しているユーザーよりも、単に調査をしているだけのユーザーが多く集まる
- 激戦区のキーワードにおいては、SEOの難易度が高いだけでなくリスティング広告の出稿料も高騰するため、費用対効果が悪化する
- SEOにおいては、検索エンジン側のアルゴリズムの調整によって露出が不安定になることがあり、誘導できるユーザー数の予測がほとんど不可能
- 必死で価格比較を行うようなケチなユーザーが増加する
- 冷やかしや通りすがり、一見さんのような、あまり質のよくないユーザーが増加する
セールスの常として、セールスする際にデメリットについて強く言及することはあまりありません。そうした中で、サーチマーケティングのメリットばかりを聞かされ続けている中小零細企業経営者が、サーチマーケティングに理想的な幻想だけを抱いてしまうことも無理からぬことではあります。しかし、見過ごしてはならない重要なことは、上の最後に記述した「冷やかしや通りすがり、一見さんのような、あまり質のよくないユーザーが増加する」ことが深刻な問題を引き起こす可能性があるということが理解されていないということです。
不良な顧客が経営を圧迫する
ほとんどのビジネスでは、優良な顧客とはリピーターのことです。既存の顧客を維持するコストと、新規の顧客を獲得するコストを比較した場合、当然のことながら既存の顧客を維持するコストのほうが低く、収益につながりやすいものです。また、顧客獲得コストという観点からだけではなく、ライフタイムバリューといった観点からも、やはりリピーターは好ましいものとされます。さらに、熱心なリピーターは優秀な営業マンとなり、新規の顧客をも連れてきてくれます。この場合の新規顧客の獲得コストは限りなくゼロに近いもので、ほとんどのビジネスがリピーターを重視する理由はここにあります。リピーターからのクチコミほど威力のある顧客獲得経路は他にないでしょう。
一方、冷やかし客や通りすがり客、一見客、といった人々についてはどうでしょうか。商品やサービスの説明に要するコストや、会社やブランドに親しんでもらうまでの時間的コストなどを考慮すると、彼らを顧客にするためのコストは非常に高くつきます。さらに、一見客である彼らを顧客に変えるために多大なコストを支払っても、その結果彼らが優良なリピーターになってくれるとは限りません。
サーチマーケティングによって集客できるユーザーの大半は、冷やかし客や通りすがり客、一見客、といった人々です。彼らは、その商品やサービスに関するよい助言者に恵まれておらず、どうやって商品やサービスや事業者を選択してよいかわからないために、とりあえずインターネットで検索しているわけです。場合によっては、同種の商品やサービスを提供していた業者から見限られ、難民のようになってしまった人々かもしれません。サーチマーケティングが成功し、このような人々が大挙してサイトに押し寄せてきた場合、以下のようなことも起こり得ます。
- 成約につながらない不毛な問い合わせへの対応に追われるようになる
- ほとんど反応が期待できない資料の発送に追われるようになる
- 価格比較のための見積もり請求ばかりが多くなる
- 同業他社が切り捨てたような不良顧客を引き受ける羽目におちいる
特に中小零細企業においては、サーチマーケティングが成功してしまったがために、経営を圧迫されるようなことになる例は珍しくありません。現に僕自身、不毛な問い合わせが殺到し、その対応に追われて仕事が回らなくなってしまった経験を持っています。こうしたことを起こさないためにも、考えておかなければいけないことがあります。
会社にとっての理想の顧客像は?
どんな会社であっても、サーチマーケティングによって集客できるような、冷やかし客、通りすがり客、一見客などが理想の顧客像と一致する、ということはないでしょう。そもそもクチコミが期待できない業種(美容整形や探偵、消費者金融など、利用経験を他者に話さない・話したくない業種)だったり、会社のスタートアップ時など、リピーターも好ましいクチコミもない場合には、一見客であろうととにかく欲しいかもしれませんが、通常は一見客が理想の顧客であるようなことはあり得ません。
業種業態や、商品やサービスの内容によって多少の差はあるかもしれませんが、多くの場合、理想の顧客像とは、「自分自身が熱心なリピーターで、なおかつ新規の顧客も紹介してくれるような顧客」であるはずです。そうした上質の顧客を育てていくためには、顧客との関係作りといった要素が欠かせません。多くの企業にとって、どう控えめに考えても、限られたりソースの中で優先して対応すべき相手は、検索エンジンから訪れるような一見客ではないはずです。「ウチのシノギは一見客を集めてナンボじゃ」というような特殊な商売でもない限り、あまりサーチマーケティングに注力しすぎるのは考えものです。
デメリットを伝える義務。そして・・・
このエントリの冒頭で紹介したような、「耳年増になった中小企業のクライアントが、わけもわからずにSEOだの上位表示だのと執着しすぎていて、鬱陶しいことこの上ない」といった愚痴をこぼしているWeb制作会社は、サーチマーケティングにもメリットとデメリットがあることなどを、きちんと顧客に説明していくべきです。その上で、その顧客にとって最適な集客手段がサーチであるなら、それを選択すればよいだけです。サーチマーケティングが効果的な業種(美容整形や探偵、消費者金融など)というのは確かに存在しますし、それらの業種では積極的にサーチマーケティングを活用すればよいと思いますが、それがあてはまらない業種業態もあるはずです。
しかし、おそらくほとんどの業種業態では、リピートやクチコミによる集客こそが最も望ましいものでしょうし、そのために効果的なのは、施策で言えばクチコミの効果を最大化させる可能性を持ったSMO(ソーシャルメディア最適化)でしょうし、広告で言えばクチコミとの親和性の高いアフィリエイトあたりなんじゃないかと、僕は考えています。広告の世界では、新しい手法として行動ターゲティング広告あたりが注目を浴びているようですし、SEOやサーチマーケティングに踊らされる時代もそろそろ終わりなのではないでしょうか。僕がこのエントリで伝えようとした「SEOなどのサーチマーケティングが持つ致命的な欠点」とは、サーチマーケティングと親和性の高い業種業態はそう多くない、ということです。
# 追記:
# こんなサイトやってるお前が言うな! というツッコミは無しの方向でお願いします。
