パーソナライズド・サーチは、将来の話ではなく、現時点で、確実に進化しています。現在のWebサーチでは、同じキーワードで検索する限り、すべての人が同じ検索結果を受け取るというもので、検索者がそのキーワードを選んだ動機や、検索者の好みや趣向、検索者の状態などは加味されていません。例を挙げると、僕が現在のWebサーチで「ラーメン」と検索しても、他の誰かが「ラーメン」と検索しても、人によって異なるラーメンの好みや、その人が現在いる地域などについては加味されず、同じ検索結果が表示されます。また、検索者が同じだったとしても、検索者の状態によって検索ニーズは変化します。例えば、同じ僕が検索するにしても、ラーメンを作りたくて検索しているのか、ラーメンを食べたくて検索しているのか、そもそもそれはどんなラーメンなのか、ラーメンを食べたいとしてそれはどの地域でのことなのか、検索を行った時間帯はどうか、といったことは、現在のWeb検索では加味されません。
こうした問題を解決すべく、Google や Yahoo! などは、検索者の過去の行動など、Google や Yahoo! にログインした状態で得られるデータをもとに、各個人に合わせてパーソナライズするような試みを行っています。Google はすでに、ログインしているかどうかによって多少異なる検索結果を出力するようになっていますが、これはログイン状態での検索履歴をもとにチューニングしたものです。また Yahoo! については、最近、以下のような記述がありました。
検索エンジンがこのような行為に騙されてしまう現状について井上社長は「スパムSEOとはおそらく、永遠の追いかけっこになる」とする一方で、検索結果表示については、過去の検索結果やユーザーの行動を検索エンジンが把握することで特定の人にとってベストな検索結果を出せるようになる“パーソナライズ”が今後重要になると強調した。
大蘿氏も、もうWebページのリンクを解析して検索結果の表示順を決める時代でもないと指摘。また、パーソナライズによって表示順を決める要素がユーザーごとに異なれば、「スパムSEOもやりようがない」として、スパムSEO対策としても有効であると説明した。
これらを見る限り、Google や Yahoo! のパーソナライズド・サーチに対するアプローチは、すべて Google や Yahoo! の側が自動的に行い、ユーザーはただ利用するだけで、利用すればするほど検索結果がパーソナライズされていく、といったイメージです。しかしこの方法では、個人情報の取り扱いがとてもシビアで、例えば、ログイン中の検索以外の行動(オークションでの入札履歴や、フリーメールで送受信した内容や、SNSから得られる人脈の属性など)といったデータはすでに Google や Yahoo! は取得・保存しているわけですが、これらをどこまで検索結果のパーソナライズに使用するか、といったところでの課題は多そうに見えます。
しかし、検索の分野では後発である Microsft が、かなり面白いアプローチを仕掛けています。2006年3月にベータ版を公開、同2006年9月に正式版をリリースした Windows Live Searchには、Google や Yahoo! のそれとはかなり異なるアプローチで、好みの検索結果を得る方法が実装されているのです。Windows Live Gallery - Search macros から利用できるのですが、なんと Windows Live Search では、どんな条件に強い重み付けをするのか、といったことまで含めて自分好みに検索結果をカスタマイズするためのインターフェイスが実装されており、さらにはカスタマイズしたオリジナルの検索エンジンを「検索マクロ」として保存・共有することまでできるようになっています。
概要
自分の興味に合ったものだけを検索できる特注の検索エンジンが欲しいと思ったことはありませんか?
Windows Live Search Macros を使えば、 自分に最適の条件で検索を実行することができます。まさに特注の検索エンジンです。
コミュニティで作成され、一般公開されている検索マクロにはさまざまな種類があります。ぜひ自分にぴったりなものを探してみてください。
検索マクロは、すでに他の人が作成したものを読み込んで使用することもできますし、自分で作成することもできます。自分で作成する場合も、かなり平易なインターフェイスが用意されており、簡単にマクロを作ることができます。マクロの作成は「Live Search Macros: あなただけのサーチ エンジンを作りましょう」から行えます。検索マクロの作成には2つのモードがあり、初級モードは検索対象とするサイトを指定するだけ、上級モードは各種の演算子を組み合わせて様々に検索結果をカスタマイズすることができます。
上級モードで使用できる演算子の中で、特に特徴的なのは「prefer:」です。この演算子を使うと、任意の語句や演算子に重み付けすることができます。用例としては、以下のようなものが紹介されています。
prefer:
別の語句または演算子に重み付けをします
フルーツ prefer:りんご
"フルーツ" を含むページを検索し、"りんご" に重み付けをします
このような Microsoft の試みは、検索エンジン自体をプラットフォームとして開いてしまい、Microsoftがカスタマイズを行うのではなく、利用者自身にカスタマイズを委託する、というものです。もちろん、検索マクロを作成するユーザーというのは一部のマニアックなユーザーに限られるのでしょうが、そうしたマニアックなユーザーが作成した便利な検索マクロが公開されていれば、大多数のそれほどマニアックでないユーザーもまた、それを利用することによって豊かな検索体験を得ることになるでしょう。誰もが、その時の状況やニーズに応じて、ぴったりの検索結果を得る、という理想に一歩近付くための一つの大きな試みといえそうです。検索結果のパーソナライズにユーザーを介在させるというのはかなり大きなことで、少なくとも、今回の Microsft の試みは、パーソナライズド・サーチや検索のカスタマイズに、新たな局面をもたらすのは必至といえます。
また、Live.com では、検索マクロ以外にも、Live.com ページや Windows サイドバーに組み込むことができるGadgetsや、Windows Live Toolbar に組み込むことができるToolbar カスタムボタンなどをユーザーが自由に作成できるようにしてあります。
これらを総合すると、Microsoft がやろうとしていることは、Live.com をインターネットのプラットフォームとして機能させよう、ということに見えます。そしてその方法は、ユーザーやサードパーティのデベロッパーなどが自由に開発を行えるようにオープンにすることによって、Microsoft 純正以外の検索マクロやガジェットやToolbar カスタムボタンなどが生まれ、その数が増えれば増えるほど、便利になればなるほど、ユーザーが増えれば増えるほど、Microsoft のプロットフォームの価値もまた上がっていく、といった手法によるもののようです。
この手法はまさに、事実上の標準OSとなった Windows の普及に貢献した手法とまったく同じものです。Windows では、サードパーティ向けの開発環境を用意し、彼らが便利なソフトウエアを作れば作るほど、それらのユーザーが増えれば増えるほど、Windows の価値もまた上昇していきましたが、まったく同じそれを Web 上で展開しよう、というのが、どうやら Live.com の全容のようです。
つい昨日、某雑誌の取材のために Microsoftのオンラインサービス事業部長の浅川秀治さん(この方は以前 gooの中の人だったようですね)にお話しを伺ってきたのですが、浅川さんは「検索の分野では Microsoftはチャレンジャーである」というようなことをおっしゃっていました。しかし、現在 Microsoft が進めていることは、もはや「検索」という狭いマーケットに限られた話ではなく、Webのプラットフォーム化に関するものなのであり、今までOSやブラウザの独占状態を作り出してきた Microsoft は、WebにアクセスするためのブラウザのシェアもOSのシェアも押さえている上に、そうした状況を作り出すためのノウハウも資金力も持っている巨大プレーヤーです。これらのリソースをうまく使えば、「チャレンジャー」という状況はすぐに脱してしまうかもしれません。
今回 Microsoft が打ち出してきた「ユーザーやサードパーティの力を借りて共に発展していく」という戦略は、今後の検索やそれをとりまくビジネスに大きなインパクトを与えるのではないでしょうか。オンラインサービスへの全体的な転換を指向し始めた Microsoft からは、今後も目が離せそうにありません。



