45mmリフトアップしたジムニーJB23のキャスター角補正

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リーディングアーム偏芯ブッシュ運転席側

45mmリフトアップしてからキャスター角が大きく狂っており、ハンドルの戻りの悪さや直進時のふらつきといったネガティブな症状が出ていたJB23ジムニーのキャスター角補正を実施した記録。

キャスター角補正の必要性

僕のジムニーは45mmリフトアップして以来、純正状態からキャスター角が大きく狂っており、ハンドルの戻りの悪さや直進時のふらつきといったネガティブな症状が出ていました。とはいえ致命的なものではなかったので、長らく無視してそのまま乗っていたのですが、先日マッテレタイヤを装着したところそれらの症状が一層ひどくなり、キャスター角の補正を見直すことにしました。

  • 交差点の右左折やカーブの出口では自分でハンドルを戻さなければアクセルオンでもハンドルが直進状態に戻らない
  • 高速道路ではハンドルを強く押さえていないと、ハンドルがフラフラと左右に動いてしまう
  • ダートなど低ミュー路面を二輪駆動で走行していてコーナー立ち上がりでオーバーステアが出たとき、セルフステアが弱いためカウンターステアが自動的に当たらず、スピンの恐怖が高まった

上記のような症状は、キャスター角の不足に起因するものです。キャスター角とはキングピン軸(操向軸)の傾きの角度のことをいい、一般に、キャスター角が大きい(より立っている)状態になるほどオーバーステア傾向と旋回性が高まり、キャスター角が小さい(より寝ている)状態になるほどアンダーステア傾向と直進性が高まります。キャスター角の補正をせずにスプリングとショックアブソーバーだけでリフトアップした場合、リフトアップ量に応じてキャスター角は小さくなっていきます。

キャスター角の足りない車両は、ギャップを通過するときに大きくハンドルが取られたり、直進時であろうと常にハンドルを強く支持しておく必要があったりと、運転が神経質で疲れます。マッテレを装着するまでは我慢できていましたが、マッテレ装着で無視できないほど悪影響が強まった形です。本来ならシミーが出たときに同時に対策しておくべきでしたが、遅ればせながらキャスター角の補正を実施しました。

適正な補正量を計算する

僕のジムニーはもともと無補正だったわけではなく、アピオさんの45mmリフトアップキットに付属していたゴム製の偏芯ブッシュ(キャスターブッシュ)1セット分が組み込まれていて、これによってキャスター角は1.5度(1度30分)だけ補正されていました。しかし問題は、この補正量ではまだまだ不十分だったということです。

車体ごとの個体差を考慮せずに簡単に計算すると、リフトアップによるキャスター角の狂いは20mmのリフトアップにつき1.5度ほど立ってしまうんだそうです。ネットの記述によっては10mmアップにつき1度というものもあり、正確なところはよくわからないのですが、いずれにしても従来の1.5度のみの補正ではまったく足りていません。

20mmアップに対して1.5度ほどキャスター角が立つという数値を元に計算すると、45mmアップの僕のジムニーの場合、補正していない場合ならキャスター角は純正よりも3.375度ほど立った状態になるという計算です。アピオさんのキャスターブッシュを装着している状態でも、純正より1.875度と、2度近くもキャスターが立ってしまっているわけです。これではネガティブな症状が現れるのも当然です。

補正の方法を検討する

もともとのキャスターブッシュによる補正は一度忘れることにして、全体でだいたい3.375度の補正をする、という方向で補正メニューを検討しました。具体的には、アフターパーツメーカー各社から発売されている以下のような部品を組み込むことを順に検討してきました。

リーディングアームダウンブラケット
ブラケットを挟むことでリーディングアームのボディー側の取り付け位置を下げ、リーディングアームの角度を適正にする部品です。メリットは組み付けが容易で価格も比較的安いことですが、剛性に不安があったり、取り付けにフレームへの穴空け加工が必要だったり、リーディングアームの付け根の最低地上高が犠牲になる、といった様々なデメリットがあります。
補正済み強化リーディングアーム
リーディングアームそのものを、補正済みの強化品に交換するという方法です。キャスター角の補正はもちろんですが、強化品ですから剛性や強度も高まり、また製品によってはリフトアップによって短くなってしまったホイールベースを10mmほど伸ばして純正状態に近付けられるというメリットもあります。唯一のデメリットは価格が高いことですが、僕はこの方法を第一候補にしていました。
偏芯ブッシュ
最後の候補は、従来のアピオ製の偏芯ブッシュを、より補正量の大きい他の偏芯ブッシュに交換するというものです。価格も安く組み付けも容易であるというメリットがある一方、補正量の大きな偏芯ブッシュは硬質ウレタン製ですから、アピオさんのキャスターブッシュ(硬質ゴム製)から硬質ウレタン製に交換した場合に乗り心地が悪化するのではないかという懸念があります。

最終的には補正量の大きな偏芯ブッシュに交換することにしたのですが、この決定にはショップの社長の意見が決め手になりました。僕が硬質ウレタン製ブッシュの乗り心地悪化に対する懸念を相談したところ「むしろ剛性感が上がってカチッとした乗り味になることが多いからウレタン製の偏芯ブッシュがおすすめ」とアドバイスをいただいたのです。

組み付けは、従来のアピオ製を硬質ウレタン製に打ち換え、純正ブッシュはそのまま残します。こうすることで、リーディングアーム1本につき2個ついているブッシュのうちの1個は純正のゴム製のままにしておくことができるため、路面の入力によって変形する余地をある程度は残しておくことができます。かつ、もう1個のブッシュを硬質ウレタン製の偏芯ブッシュに交換することで、キャスター角の補正と同時に剛性感のアップも図る、という形です。

パーツの選択と組み付け

補正量の大きな硬質ウレタン製の偏芯ブッシュは各社が2インチアップ用を中心にラインナップしています。2インチは50.8mmですから、僕の45mmアップのジムニーには補正量が少し大きすぎるように思えます。しかしよく調べてみると2インチアップ用の偏芯ブッシュの補正量は3度ほどで、そうであるなら実際には補正量は足りていないという計算にもなります。

リフトアップ量に対してキャスター角が狂う角度の正確な数値がよくわからず、対策部品の補正量も正確にはわからないという現状の中では、選択の余地はあまり残されていません。とりあえず2インチアップ用の偏芯ブッシュを装着してみて様子を観察し、不具合があればまた検討、という方向で実施してみることにしました。よく考えた割に適当というのは悲しいですが仕方ありません。

2インチアップ用の硬質ウレタン製偏芯ブッシュをネットで調べると、格安品を除けばどれも価格や見た目が似たようなもので、事情はよくわかりませんが、どうもプロスタッフ(ZEAL)さんが製作してOEM供給しているものを各社で扱っているという状況のように見えます。実際は違うかもしれませんが、それくらいどれも似ているんです。

あとはどこで部品を買うかですが、以前ジャダーストップフルキットを導入して大きな効果を上げた実績を持っている工藤自動車さんを信頼し、工藤自動車さんが販売しているミラクルキャスターを選択することにしました。これは行きつけのショップの社長さんも同意見で、工藤自動車さんが扱っているものなら粗悪品はあり得ないだろう、という判断です。

無事にミラクルキャスターが届いたところで行きつけのショップに組み付けをお願いしました。ブッシュの圧入にプレス機と治具が必要で、DIYでできる作業ではないためです。組み付けが終わったあとの写真が以下のもの。黄色いパーツがミラクルキャスターです。

リーディングアーム偏芯ブッシュ運転席側

インプレッション

組み付けが終わってダートや雪道を含む1,000kmほどを試走した感想では、どうもキャスター角は純正よりもまだ立っている印象です。もう純正状態がどんなだったか正確に思い出すのは難しいのですが、ハンドルの戻りの強さは純正状態よりも少し弱いように思えるのです。45mmのリフトアップに対して2インチリフトアップ用(50.8mmアップ用)を装着したにも関わらず、補正量が足りなかったことになります。とはいえ補正量が従来より大きくなったためか、マッテレ装着後に出ていた不具合はすべて解消しました。

  • 高速走行時でもハンドルに軽く手を添える程度でまっすぐ走るほど直進性が向上
  • カーブの出口でもアクセルオンで自動的にハンドルが戻るようになった
  • 雪上やダート上でオーバーステアになったときのステアリングの挙動も素直になり、スピンの不安が減少した

さらに驚いたのは、サスペンションの動きそのものが以前よりよくなったことです。ゴツゴツした不快な突き上げ感が減り、よく動くサスになったように感じます。これはホーシングの角度が補正されたことによりコイルの弓なりが解消し、コイルスプリングの動きがスムーズになった効果であるようです。またステアリングに伝わる剛性感が上がり、操縦性が高まりました。

  • ホーシングの角度が補正されたことによりコイルの弓なりが解消、サスペンション全体の動きがよくなり、深いな突き上げ感が減るなど乗り心地が改善した
  • 偏芯ブッシュがゴム製から硬質ウレタン製に変わったことによりブッシュの動きが制限され、ハンドリングに剛性感が出て舗装路や固い未舗装路での操縦性が改善した

ゴム製の偏芯ブッシュから硬質ウレタン製の偏芯ブッシュに交換して乗り心地が改善するとは思いませんでしたが、これは信頼できるショップの社長さんに相談したたまものです。僕の素人判断ではこうはいかなかったはずで、相談しなければ強化リーディングアームを選択していたと思います。ともあれ結果的には、もっと早く相談、そして実施しておけばよかったと心から思うような、満足度の高いチューニングとなりました。

リーディングアーム偏芯ブッシュ助手席側

アピオさんの45mmアップキットを組み込んでいる、またはこれから組み込もうというジムニー乗りの方は多いと思われます。これはバランスも良く素晴らしい製品ですが、キット内容そのままではキャスター角の補正量が足りていません。2インチアップ相当の偏芯ブッシュ(僕はミラクルキャスターを選択)に交換することを強くおすすめします。部品代も安く、それでいて車両とサスペンションキットそれぞれの本来の性能が発揮できるようになります。