非バリアフリー施設のWebサイトのアクセシビリティはどうあるべきか?

去る2006年12月20日に、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」が施行されました。この法律は通称「バリアフリー新法」と呼ばれ、国土交通省によって昨年2005年6月21日に交付されたものです。この法律は、従来からあったハートビル法と交通バリアフリー法を一体化した内容で、従来は別々に行われてきた、建築物などの施設のバリアフリー施策と、道路や駅などの交通施設のバリアフリー施策を、一体的かつ総合的に推進させることを狙うものだといいます。詳しい内容については国土交通省内の当該ページをご覧いただくとして、このエントリで話題にしたいのは、バリアフリー化されていない施設のWebサイトのアクセシビリティはどうあるべきか?というものです。

というのも、僕は個人的に、「アクセシブルでない施設を紹介する Web サイトがアクセシブルである必要があるか?」とか、「すべての Web サイトがアクセシブルである必要は本当にあるか?」といった疑問を常に持っていました。なぜなら、現実世界には制約が多く、その制約自体が価値を持っているケースもかなりあるからです。僕の個人的な経験からいっても、険しい山の登頂や、一見さんお断りのお店や、オートバイのような危険をともなうスポーツなどは、そこに制約があるからこそカタルシスの得られるものであり、逆に言えば制約自体に価値があると思える面もあるのです。もしそうであるなら、そうしたものを紹介するサイトがアクセシブルである必要があるでしょうか?

このことをきちんと考えざるを得なくなったのは、現在僕が抱えている案件に理由があります。すでに制作は大詰めを迎えており、現在はサーバにアップされ、最終的な調整を行っているところなのですが、大阪府泉佐野市の犬鳴山 七宝滝寺(いぬなきさん しっぽうりゅうじ)という寺院のサイトがそれです。このお寺、境内に修験道の行場が存在するなど修験道の道場としての性質を備えており、施設としてはバリアフリーとは程遠い現状にあります。修験道というのはいわゆる山伏の宗教で、滝行や入峰修行などからも連想されるとおりですが、大自然の中において実践をもって修養を重ねるもの(参考 :修験道 – Wikipedia)で、バリアフリーやユニバーサルデザインの考え方とは意を異にする部分も持っています。

修験道が持っている修行の実践という文化的側面や、修験道場の地形が持つ機能、またこれらが持つ歴史的価値などに目を向けると、修験道場を容易にバリアフリー化するわけにはいかないだろうことは僕にも予測がつきます。このお寺では修験道の一日体験といったイベントが定期的に格安の料金で開催されており、一般にも大いに人気を博しているそうですが、この様子を見る限りでも、足場の悪い山道を歩き、岩場を登り、滝に打たれるといった修行は、健常な若者にとっても危険なものであり、高齢者や重い障害を持っている人にとってはいわずもがなです。

こうした修行をするまでは至らず、ただ単に参拝するだけだったとしても、足場の悪い山道や段差の大きい石段を歩かなければならず、肢体や視力に不自由がある場合にはかなりの危険がともないます。しかも、その施設が持つ歴史的文化的価値や景観保護などといった側面から、将来的にもそうした危険が解除される保障はありません。

このように、こうした寺院や修行場のバリアフリー化の問題にはデリケートな問題がありそうですし、そもそも施設や建築物のバリアフリー化の問題に関しては僕は専門外なので、この問題についてはここまでにしておきたいと思うのですが、しかし、すべてが僕とは無関係とは言い切れません。僕たちWeb 制作者にとって問題になってくるのが、「では、こうした施設のサイトにおける Web アクセシビリティはどうあるべきか?」ということです。

現実世界では冒頭で紹介したバリアフリー新法に代表されるように施設や交通のバリアフリー化が進み、Web の世界ではJIS X8341-3 のような Web アクセシビリティが進んでいますが、そもそも「誰もが等しく利用できる」ことを想定していない施設(今回の七宝滝寺のような)の Web サイトにおけるアクセシビリティはどんな意味を持っているのか、という疑問は当然のように起きてきます。つまり、簡単にいうと、「サイトだけアクセシブルでも意味ないんじゃないの?」といった疑問です。

マーケティング的な見地からのターゲットユーザー層だけを考えるのであれば、今回のケースなどは Web アクセシビリティを検討する必要はほとんどないでしょう。施設のすべてを利用できる人がターゲットユーザーであるとするならば、それは施設の性質から健常者に限られるからです。こうしたケースは、今回の修験道場のような特別なケースでなかったとしても、マリンスポーツ関連やウインタースポーツ関連、モータースポーツ関連のように、身体の衰えや障碍が命に関わる事故を招く危険のあるあらゆるジャンルについても同様のことが言えるのではないでしょうか。

しかし僕は、今回のサイト制作においては、非常識なほどの低予算(気持ちとしてはビジネスというよりは寄進に近いくらいの低予算ですし、この理由で外注も使えませんでした。企画からデザインや画像補整からコーディングに至るまですべて僕の手作りです)の範囲内ではあるものの、極力高いアクセシビリティを確保できるように努力しました。主な理由として以下の二点の場合の利用を想定したからです。

  • 施設を利用したいのではなく、情報のみを利用したいという場合
  • 健常な利用者がPC以外の端末(ブラウザフォンなど)で情報を利用する場合

今回の案件については、特に一点目は重要でした。というのも、七宝滝寺の歴史にあるように、このお寺は、修験道の開祖である役小角が吉野の大峰山よりも6年早く開山しているなど修験道のルーツに近い背景を持っていたり、南北朝時代や戦国時代には地理的にも人員的にも軍事上の要衝だったような歴史もあるために、そうした歴史の調査などのといった参拝や修行以外の目的で情報を求める人が存在するだろうことが予想されたからです。

さらに考えを推し進めると、上述のような調査を行う人々の中には、高齢者や障害者が含まれていても何ら不思議はありませんし、日本語を母国語としない外国人が含まれていても不思議はありません。そのために、高齢者や障害者のためのアクセシビリティを確保するだけでなく、ナビゲーションもすべてテキストベースで行うことによって、各種の機械翻訳にも対応させました。日本語から英語への翻訳を見る限り、日本語から他国語への機械翻訳の精度はお粗末なものですが、それでも非対応よりはよいでしょう。(もちろん各国語版を用意できればそれが最善ですが低予算で受注した関係上そこまではできませんでした)

こうした、調査などのような参拝や修行以外の目的でサイトを訪問する人々は、直接の収益をもたらしませんので、いわゆるターゲットユーザーではありません。しかし、これらの人々の情報源となることは、Web マーケティング全般から見れば確実にプラスになると考えてよいと思います。それは以下の理由によります。

  • 情報は流通すればするほど多くの人の目に触れるが、情報を流通させる人が常に売り上げに貢献する人と同一であるとは限らない
  • Web を利用する以外に情報の取得経路を持たない人々も存在する
  • サイトの被リンクを向上させることをはじめ、サイトへのトラフィックの流入経路を増やしていく際には、直接的な収益をもたらす人々だけが働いてくれるとは限らず、それ以外の人々がトラフィックの流入経路を増やしてくれることも十分に考えられる

上記のようなことから、このサイトの制作を進めながら得た僕の結論は、ここまで極端なケースでなくとも、非バリアフリーな施設の Web サイトも極力アクセシブルに制作すべき、というものです。というのも、情報の流通ということに目を向けると、実際の施設がアクセシブルでないからこそ、より一層サイトがアクセシブルであることの重要性が高まるように思えるからです。こう考えれば、施設がアクセシブルではないのにサイトだけアクセシブルでも意味はない、などということはありません。

短期的に見れば施設の利用者増や売り上げ増に貢献しなかったとしても、Web サイトをアクセシブルにし、情報の流通を活性化することには価値があります。なぜなら、オフラインの現実世界では、身体的な制約や、地理的な制約や、時間的な制約や、使用言語からくる制約などからアクセスできない場所や体験というものは存在しますが、Web 上にはそれらの制約は本質的には存在しないからこそ、情報だけは流通させることができ、相対的に現実の価値を高めることができるからです。つまり、ごく簡単に表現するなら、「誰でも知ることはできる。しかし誰でも体験できるわけではない」といった具合です。

こうして文字にしてみると、内容の当然すぎることにいささか閉口しますが、今回よく考えてみた結果、僕の場合は、現実世界の制約と Web 世界における制約を混同する必要はない、というシンプルな事実に落ち着きました。現実に制約があり、その制約が価値を生むからといって、それを Web に持ち込む必要はなく、むしろ Web 上においては制約を取り去ることで、現実世界の制約が持つ価値を相対的に引き上げることができる、というわけです。もちろんこの結論が常にどんな案件にもあてはまるとは思いませんが、僕としては一応の結論をみたように思います。みなさんのご意見はいかがでしょうか。

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