書籍「ブログスフィア – アメリカ企業を変えた100人のブロガーたち」は、実体をまったく表さない意味不明なタイトルとサブタイトルによって大損していますが、内容は実に素晴らしいもので、僕が最近読んだソーシャルメディア関連の書籍の中では最も面白く興味深かった一冊です。ビジネスブログを運営する意味をここに明確に見いだすことができ、少なくとも、僕のクライアントの全員には、ぜひともご一読をお勧めしたい良書です。
この本の原題は「Nakid Conversations」というもので、日本語に意訳するなら「腹を割った会話のやりとり」とでもいうべきものでしょうか。原書のサブタイトルは「How Blogs Are Changing the Way Businesses Talk With Customers」とあり、これも日本語で言うなら「いかにしてブログは顧客との会話を変化させるか」といったところでしょう。この原題とサブタイトルが表すとおり、この本は、ブログをビジネスにおける顧客とのコミュニケーションツールとして活用するための本です。ブログについてのの活用に関するノウハウを、緻密な取材に基づいた数多くの実例とともに満載された本であり、ビジネスブログ に関する既存のどの書籍よりも詳しく述べられていると言っていいでしょう。
ろくでもない邦題と日本語版サブタイトルをつけたことによって、僕がこの本を手にする時期を遅らせた 日経BP社出版センターに、一言文句を言ってやりたいくらいです。この書籍が世に出たのは2006年の7月。そして僕が手に取ったのは2007年の1月です。この半年間の機会損失は計り知れません。
さて、僕がこのエントリの冒頭で「少なくとも、僕のクライアントの全員には、ぜひともご一読をお勧めしたい」と書いた理由は以下の部分に端的に表れています。長くなりますが、引用してみましょう。
本書の調査のために、地元の配管工や工務店がブログをやっていないかと探してみた。残念ながら見つからなかったが、遠からぬ将来、そうなると思う。こうした小さなビジネスがブログをやることには、大きなメリットがある。地元の配管工になったつもりで考えてみよう。宣伝の方法は限られている。予算は電話帳広告がせいぜいだが、水漏れやパイプ詰まりに悩む人々が電話帳を広げる時は、たいてい切羽詰まっている。だから、すぐにめにつくように、広告する側は大きな広告スペースを買い、店名と電話番号をでかでかと載せる。それでも、客はあなたについて何もわからない。評判も、腕前も、何もわからないのだ。その広告でわかるのは、ただ名前と電話番号だけだ。
さて、今度は近所で初めての配管工ブロガーになったと考えてみて欲しい。どうやってパイプを清潔に保つか、どうやって浄水器のフィルターを換えたりパイプ詰まりを防ぐのかーーブログによってノウハウや能力を示すことができる。それは世界最高のブログになるかもしれない。だが、人々はどうやってあなたを見つけるのか? 切羽詰まった時以外に、配管工のサイトを探して回る人は多くない。
だが、いまやグーグル・ローカルのような地域情報サイトを利用する人はどんどん増えている。そんな人たちは、レストラン、クリーニング屋、配管工などを地域情報サイトで検索している。配管工ブログをやっていれば、そんなサイトで真っ先に表示されるだろうし、ブログを読めば豊かなノウハウと技術がわかってもらえる。さらに、これは信頼を築く仕組みにもなる。こんなブログを書く配管工と、電話帳に店名と電話番号だけを載せいている配管工と、客はどちらを選ぶだろうか?
ブログスフィア – アメリカ企業を変えた100人のブロガーたち – p126-127
昨晩の2007年1月21の21時から、NHK総合テレビで「NHKスペシャル | グーグル革命の衝撃 〜あなたの人生を“検索”が変える」という番組が放送され、その中に次のような場面がありました。舞台はサンフランシスコでレーシックを手がける病院。そこに訪れた患者は口を揃えて「その病院を検索して見つけた」といいました。そして「検索結果に表示された病院サイトで医師に関する情報を探し、この医師は信頼できると確信して、ここに来たのです」というのです。この話の中で重要なのは、検索結果に表示された病院の中から、医師が信頼に足ると確信した病院に訪れているということです。
病院へのトラフィックを集めるだけなら、リスティング広告を使用するなどすれば簡単に実現できます。しかし、そうして訪問してきた閲覧者から信頼を勝ち取るためには、実際にその医師が信頼に足る人物であり、そのことがきちんとアピールされている必要があります。その人物の能力や人柄、評判、他の患者の声、といった様々なことを伝えるために、現時点で選択できる最も賢い選択肢は「ブログを書く」ということでしょう。嘘や偽りのないことを語り、弱点を晒し、そこに生きた人間がいることを知らしめることは、信頼を得るためにとても重要なことです。僕自身、このブログを書いていてどれだけの恩恵を得ているかはかりしれません。
それでもなお、自分が携わっている仕事の内容の機密性から、ブログを書くことに対してある種のためらいを感じる方も多いでしょう。そうした方には以下の文章は示唆に富んでいます。
企業によっては、非常に機密性の高い情報を扱っている。諜報活動に携わっている連邦政府職員が職場ブログを始めることは想像できないしそうすべきだとも思わない。機密の程度こそ違うが、金融コンサルティング、証券ブローカー、私立探偵、防衛関連などの組織も、ブログには慎重に臨むか、まったく手を出さない方がいい。レイセオン、ロッキード・マーチン、そして国土安全保障省といった組織は、いずれもブログをすべきだとは思わないと私たちに語った。私たちも、おおむね同意する。
とはいえ、「ある種の組織の構成員はブログをすべきではない」という以上に、「ある種のことはブログに向かない」という方が適切だろう。例えば、弁護士のブログは数多いが、業務内容を漏らすわけではない。我々のブログのある常連は、次のように語った。「僕はブログをやっている警察署長、都市計画立案者、そして消防署長を知っている。誰だってブログを持つことはできる。人殺しのマフィアだってブログは開けるし、ゴミ収集者、靴磨き、トイレ清掃の作業員だってそうだ。もちろん、ブログに書いてはいけないことがあることは、連中もよくわかっている。FBI や CIA の人間にとっては、書いてはいけないことがあるのは、当たり前のことだ」
ブログスフィア – アメリカ企業を変えた100人のブロガーたち – p204-205
どんな職業であっても、多かれ少なかれ機密事項はあるものです。そして、自分の職務領域機や、それに関する機密事項のことをきちんと理解しているプロフェッショナルであるなら、ブログを書くことをためらう必要なありません。むしろ、そうした自律のできるプロフェッショナルこそ、プロフェッショナルの証としてブログを書き、信頼を得るべきなのではないでしょうか。
「ブログスフィア – アメリカ企業を変えた100人のブロガーたち」は、冒頭でも述べたように日本語版のタイトルやサブタイトルが内容と大きく異なりますが、内容はとても素晴らしいものです。ぜひご一読をおすすめします。
