未知の分野の知見を効率的に得る

先週末のことですが、佐々木俊尚さんから突然、献本が送られてきました。タイトルは「3時間で『専門家』になる私の方法」というもので、サブタイトルには「ITジャーナリストの情報収集・整理術」とあります。内容としては、自分自身にとってあまり詳しくない分野について、主にWebを使った情報検索を駆使することで、わずか3時間ほどの時間でそれなりの知見を得る、というものです。

より具体的には、調べようとするその分野について、表層的な知識を広く集め整理すると同時に、その分野における代表的な課題のいくつかについて掘り下げていくことで、その分野における皮膚感覚のようなもの(クオリアと表現されている)を得る、しかもごく短時間のうちに、といった具合でしょうか。

ここに書かれている方法は、僕たちの年代(僕は1971年生まれ)やそれより若い世代ではわりと普通に使われているもので、例えば、Web制作の仕事で未知の業種業態のクライアントからの依頼が来た場合などには、僕はまさにこの通りの方法でリサーチを行っています。他の使用例としては、小説を書く際の登場人物の職業的背景を考える際にも利用しました。そして、僕が知っている範囲に限られますが、新聞や雑誌の記者なども、一部これに類似した方法を使っているようです。

しかしあくまでも、この方法はわりと若い世代で常用されているに過ぎず、おそらく佐々木さんと同世代(佐々木さんは1961年生まれ)やそれ以上の年代の人、特にジャーナリストの人にとっては衝撃的な内容なのではないかと思われます。Webを駆使した(ブログ検索や2ちゃんねるまでも!)情報収集術を扱っているというのは、ベテランのジャーナリストならこれをどう感じるのか、興味深いところではあります。

ちなみに僕と佐々木さんが知り合ったのは5年前に遡ります。当時アスキーで記者をしていた佐々木さんが「理想のウェブってどんなウェブ? ネットの世界が求めているものは」という記事を書くにあたって、僕に取材されたのです。それ以来、佐々木さんからは何度か取材をお受けしているため、彼の特徴的なスタイルについてはいくらか理解しているように思います。佐々木さんのスタイルでは、記事を書き上げるまでのフローは大まかに言って次のようなものです。

  1. 主題を決める
  2. 主題についてリサーチする
  3. 切り口と記事の大枠を決める
  4. 取材先をあたる
  5. 実際の記事にする

佐々木さんのスタイルで特徴的なのは、取材先と接触する時点で、すでに記事の大枠ができてしまっている、というところでしょう。つまり、それだけ綿密なリサーチが事前になされている、ということです。おそらく、この「3時間で『専門家』になる私の方法」にあったような方法で、取材対象者と接触する前に、かなりの部分の調査(場合によっては記事の大枠作りまでも)が完了しているわけです。

3時間で『専門家』になる私の方法」の中では、Webを使ったリサーチによってごく短時間のうちに皮膚感覚(クオリア)を得る、というところまでしか書かれていませんでしたが、僕の予想では、佐々木さんはその後、当事者や関係者に会って取材をすることで、リサーチによって得たクオリアが間違ったものではないかどうかを確認しているのではないかと思います。

この意味では、本書に書かれた情報収集術、情報整理術というのは、あくまでもインターネットを使用したものに特化していて、あとがきにも書かれているとおり、原稿を書くための完全なものではありません(なにしろ主題の選定やインタビュー取材、原稿執筆については触れられていませんから)。場合によっては、さらに続きが出そうな気配なわけですが、今後発表されるであろうその続きの部分も含めて、大いに期待が持てます。また、本書に書かれていた内容の中でも、特に、情報を整理して事象の全体像を見通すテクニックの見事さには惚れ惚れしました。さっそく今日から意識したいと思いました。

ご興味があれば、皆さんもどうぞ。

3時間で『専門家』になる私の方法

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