新しい話・当たり前の話

三井住友カードから送られてくる月刊誌「VISA」6月号を何気なく読んでいたら、立川談春氏のインタビュー記事に興味深い一節がありました。初心忘るべからず、というような文脈で出てきた話なんですが、次のようなものです。

東京と地方を行き来する中で、最近思うことがある。
「東京では常に新しいものをやらなきゃという強迫観念がある。和食に、中華やフレンチのソースを取り入れてみました。でも和の食材は決して乱れていないでしょ、というのが東京だとすれば、奇をてらわなくてもいいからほんとに美味しい椀を作ってよ、というのが地方です」

これはなにも噺家さんに限った話ではなくて、僕の仕事にも言えることなんですよね。感覚的に、東京の人はおしなべて物知りで新しいもの好きで、東京で講演やセミナーなんかの仕事をすると、みんなあまり知られていないこと、より新しいことを知りたがっているように思えるんです。これが一種の強迫観念のように僕にのしかかる。

しかし僕は個人的には、目新しくていま効果があるというだけで明日どうなるかもわからないような不安定なネタよりも、堅実で、5年後にも10年後にもつながっていくような本質的な知識や方法にこそ興味があります。基本的に「先々週くらいから海外のSEO業界ではこういう話題で持ちきりで」みたいなチャラチャラした話はどうでもいい。そして、地方ではわりと堅実な話が受けやすく、したがって僕には地方の仕事はやりやすい。

そもそもですが、新興の一部を除いて、たいていのサイトは(つまりたいていの事業は)何年もかけて育てていくものなわけで、ここ数週間とか数日とかのスパンで語られるような最新トレンドなんて、ほとんどのサイトには関係ないだけでなく、むしろ邪魔ですらあるというのが僕の考えです。制作の仕事にしても同じで、クライアントとの長いお付き合いを望んでいるのであば、先々どう転ぶかわからないような変なトリックをクライアントのサイトに仕込むような仕事はできません。

そんなわけで、仕事の上では僕の立場は割と明確なんですが、悩ましいのはブログです。実際の仕事においては新しい話よりも当たり前の話を好む僕でも、ブログを書くときには、ある程度は新しい話題に触れていかないと、多くの人に見てもらいにくいのではないか、なんて思ってしまうんです。実際問題、熱心にブログを読む人というのは一般的に、アンテナが高くて新しいもの好きの人が多いですから、これはある意味で必然です。

つまり、東京で講演やセミナーをやるときに感じる一種の強迫観念のようなものを、ブログを書くときにも感じてしまっている、ということです。すると、本当はあまり興味もないくせに、ブログには何か新しい話を書かなきゃ、なんて考えて、でもそれだと僕自身が面白くない、となり、それでついつい億劫になってブログ自体を書かなくなってしまう、という悪循環にはまります。

でも、冒頭の引用や地方での僕の仕事に立ち返って考えれば、僕のブログも初心に戻った方がいいのかもしれませんね。本当は僕のブログにだって、当たり前で堅実な話を期待している読者の方も多いのかもしれませんし、それに、僕が目新しくないと思っている話題であっても、それを目新しいものとして見てくれる読者もいるかもしれません。

これからは、書きかけたエントリを、この話題はあんまり目新しくないから、という理由でボツにしたりするようなことは減らして、もう少し気楽に、当たり前のことを当たり前に書く、というようなことも意識したいなあ、と思います。大好きな地方の仕事と同じような気持ちでブログを書けるなら、そのほうが気分がいいでしょうから。

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