前回のエントリの続きです。7月22日に北青山で行われた電脳卸によるアフィリエイト&ドロップシッピング見本市では、その日のセミナーセッションのトップバッターとして講演した後は、他のセッションを聞いたり、開場をうろついたり、スタッフの邪魔をしたり、打ち上げ、二次会、三次会、という感じで一日楽しんできました。
本題の「ドロップ・シッピング」ですが、これは電脳卸の木村大将(電脳卸の主催企業であるウェブシャークでは、社長のことを「大将」と呼びます)の講演「Eコマース2.0 〜次世代のEコマースの形とは?〜」を中心に、とても熱い内容と空気に触れることができました。
「ドロップ・シッピング」とは簡単にいうと、オンラインショップ運営者がサイト上で商品を販売し、メーカーや輸入代理店、卸業者がエンドユーザーに直送する、という仕組みです。オンラインショップ運営者は、在庫を持つことなく(つまり資本も倉庫も不要で)、商品の発送業務もする必要がなく、商材の選定や価格設定、販促や顧客管理、といった販売業務だけに専念できます。このあたりの概要は以前のエントリ: Long Tail とドロップ・シッピングを巡るEC周辺の熱い動きで紹介したとおりです。電脳卸のシステムでは、価格設定も自由ですので、事業を継続し、顧客名簿がそれなりの規模になってくれば、安定した事業になりそうです。好きなようにサイトを構築し、好きな商品を好きな値段で売ることができますから、ショップ経営者としては販売のセンス次第で高収益も狙いやすいでしょう。
反面、ショップ側にはクレーム処理などを含めた顧客対応などといった、通常のショップ運営に求められることが当然のように求められますので、従来のアフィリエイトのような「気軽な副業・小遣い稼ぎ」といった雰囲気ではなく、事業として正面から挑戦する必要があるようです。この意味では、ドロップ・シッピングはアフィリエイトよりもはるかに参入障壁が高い、というかまったく別物なわけですが、この点についてトークセッションの際に木村大将に質問してみたところ、木村大将は、「ドロップシッピングは普通の商売」であり、「アフィリエイトは広告」であって、両者にそれぞれメリットもデメリットもあり、ドロップ・シッピングが台頭してきたからといってアフィリエイトがなくなるわけでもなく、どちらを選ぶかは参加者次第、という回答をくれました。非常に納得のいく、わかりやすい答えです。
そんな感じでイベントに参加する中で、僕が強く感じたのことが2点あります。一つは、このドロップシッピング、個人や小規模事業でも気軽に参入できるビジネスとしては、広告モデル以外の初めてのモデルだ、ということ。そしてもう一つは、ドロップシッピングには既存の流通・物販の形を大きく変えてしまうだけの力がある、ということです。インターネットがビジネスを変える、というようなことが叫ばれて久しいですが、既存のビジネスを変えてしまうほどの強いインパクトをもったものは、今までなかったと思います。ところが、このドロップシッピングやその周辺の流れは、物販に関してだけではありますが、既存のビジネスを変えてしまうだけのインパクトがあります。
まず、個人や小規模事業でも気軽に物販事業に参入できるようになるという点。先に述べたように、ドロップシッピングによって障壁が完全になくなるわけではありません。顧客対応や商品の見せ方、オンラインショップの制作・運営など、ある程度のスキルやセンスを要する仕事は当然残っています。それでも、物販事業への参入は飛躍的に容易になります。なぜなら、個人や小規模事業が物販事業に参入するために必要なことのうち、最も難しい以下のような点を、ドロップシッピングによって自動的にクリアできるからです。
- 自分の店にあった商品の仕入れ先を探すこと
- メーカーや輸入代理店、卸業者などの仕入れ先と取り引きできるだけの信用を確保すること
- 仕入れを行うための資金を確保すること
- 商品を保管するための倉庫を確保し、維持すること
- 発送業務を行うための人件費などのコストを負担すること
木村大将の言葉を借りれば、「今までは商売するためには、資本とセンスの両方が必要だったが、これからは資本がなくても、商売のセンスのある人なら誰でも、商売で成功できる」ということです。商品の見せ方、販売価格の設定、顧客対応、といったセンスはもちろん重要ですが、今までの物販の世界では、それらのセンスを発揮する以前の障壁が高すぎて参入できない、ということが珍しくなかったものが、ドロップシッピングによって変わる、というわけです。
これは、既存のビジネスを変えてしまうだけのインパクトを持っていると、僕は思います。先に挙げたような、物販をはじめる段階で必要になる高いハードルは、いわば既存の販売店の既得権のようなもので、新規参入を妨げる参入障壁として機能しています。もちろんそれは悪い意味だけでなく、業界を安定させ、商品の価格を守る、という良い面もあったでしょう。しかし今後はそうはいきません。良くも悪くも、新しい商売のセンスを持った新しい世代がネットを舞台に次々と参入し、競争していくことになるのでしょう。新しい見せ方、新しい売り方が競争の中から生まれていくことでしょう。
また、販売者が変わるだけではありません。ドロップシッピングの仕組みでは、注文が入った数だけがエンドユーザーの元に直送されるので、需要より多くの商品がメーカーから出荷されることがありません。今までであれば、メーカーはロット単位で卸業者や小売店に出荷していたため、売れ残りのリスクは卸業者や小売店が負っていましたが、ドロップシッピングの仕組みを使う限り、こうした過剰生産や過剰在庫のリスクはすべてメーカーに帰せられます。そうなると、メーカーは正確な需要予測を行う必要に迫られるか、またはリードタイムの短縮やジャスト・イン・タイムによる生産などといった努力を重ねるか、といった必要に迫られます。こうしたことが、製造から流通の業界にもたらすインパクトは大きなものになるでしょう。まさに、インターネットビジネスがリアルビジネスに影響する瞬間です。
そして最後に、これはごく身近な業界でいえば、以前のエントリ: Long Tail とドロップ・シッピングを巡るEC周辺の熱い動きでも少し触れたとおりですが、ウェブ制作の業界にも、新しい動きをもたらすかもしれません。
現在のところ、いわゆるウェブ制作業者(僕含め)というのは、顧客のためにサイトを制作し、そのサイトで成果が上がろうが上がるまいが関係なく、顧客から「サイト制作料金」や「運営維持費用」を徴収してきました。何かがおかしい、と考えるのは普通のことでしょう。しかし、ドロップ・シッピングの仕組みを使えば、販売サイトの制作は成果報酬が当然ですから、商品を持っている会社からすれば無駄(かもしれない不明瞭な)な投資を抑えることができ、サイト制作を行う業者は成果に対して正当な報酬(莫大な金額かもしれず、ゼロまたは持ち出しかもしれませんが)を手にすることができるようになります。
ドロップシッピングは単なる広告ではなく、「商売そのもの」であるからこそ、こうした動きの気配が起きてくるのだと思います。
ますます熱くなってきました。
